日本フィル・第598回東京定期演奏会

日本フィル、金曜日の定期演奏会を聴いてきました。私は土曜日の会員ですが、土曜は他に聴きたいコンサートがあり、振替システムを利用して出掛けたのです。
従って、いつもの定席ではなく、1階3列目のど真ん中という場所。オケのバランスをどうこう言える席ではありません。よって演奏に関するコメントは控えめ。あまり本気には取らないように。
日本フィル第598回東京定期演奏会 サントリーホール
 ブラームス/ピアノ協奏曲第2番
     ~休憩~
 R.シュトラウス/交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」
  指揮/沼尻竜典
  ピアノ/ニコラ・アンゲリッシュ
  コンサートマスター/木野雅之
  フォアシュピーラー/江口有香
横浜に続いて沼尻のブラームス・チクルスにも繋がります。
まずピアノのアンゲリッシュに驚かされました。1970年のアメリカ生まれですから、今年38歳。13歳でパリ国立高等音楽院に入学し、チッコリーニ、ロリオ、ベロフに師事した人です。
2004年にはマズア/フランス国立管と日本ツアーを行っているそうですが、私は初めて、名前も今日初めて目にしました。
室内楽活動にも熱心、現代作品も数多くレパートリーにしている由。バルトーク、メシアン、ブーレーズからピエール・アンリなども得意とか。アンリは彼のために「オーケストラなしのピアノ協奏曲」というものを作曲しているそうです。
とにかく大きい人です。上も横も。髪の毛がかなり後退しているため、年齢よりは老けて見えます。これだけ身体が大きければ手も大きいでしょうね。
ブラームスは圧倒されました。テクニックは完璧。難曲中の難曲で知られる作品ですが、らくらくと弾いています。音量も大したもの。オーケストラは16型でしたが、どんな細かなパッセージも隅々まで聴き取れます。私の席がピアノの真ん前だったからというだけではないようで、後方や2階席で聴かれた知人たちも、一様にピアノのパワーを話題にしていました。
演奏スタイルも正統派。何の小細工も弄さず、本格派ブラームスを堂々と、かつ美しく奏でました。特に第3楽章のシットリとした味わい、チェロ首席・菊地知也との滑らかなデュオは至福の時でしたね。
アンコールがありました。シューマンのトロイメライ。ブラームスの師・シューマンを選んだセンスも素晴らしいのですが、アンゲリッシュは、このアンコール・ピースをブラームスとは全く異なる、極めて繊細な表現で演奏しました。テンポ・ルバートの微妙な息遣い、ピアノの響きを千変万化させるペダリングの見事さ。この大男、実は極めてデリケートなハートの持主と見ました。いかにも苦しそうな表情で弾くトロイメライ。これは別世界でしたね。
シュトラウスは何せ3列目。音が鳴り出すまでは “ここじゃねぇ~” と諦めていました。
ところがこれが面白かった! 何が面白いって、今回いやと言うほど思い知ったのは、ツァラトゥストラは “室内楽、時々交響詩” という作品であるという事実。この面白さはCDでは絶対に判らないし、一般には良い席とされている15列目や2階最前列などでも味わえないでしょうね。
今回の弦楽合奏はシュトラウスの指示通り、16-16-12-12-8、という編成。彼のスコアはこの弦を実に細かく分奏させ、ほとんどプルト毎に演奏していることが全て異なるという書き方なのです。
弦楽四重奏から始めて次第に音楽の波が後方に広がっていく様。逆に、後のパートだけが演奏することによって生まれてくる立体感や移動感。ステージに近い場所でしか真価が判らない箇所満載なのです。
例を挙げましょうか。「踊りの歌」の真ん中あたり、オイレンブルク版スコアで言うと165ページの第1ホルンのソロ。ここに添えられるヴィオラは、弱音器を付けた2・3・4プルトの6人。第1プルトと5・6プルトはお休み。思いもかけぬ場所から密やかなヴィオラの囁きが聴こえる。こんなの初めて気が付きましたよ。帰宅してからスコアで確認しました。
それより前、同じく「踊りの歌」が始まって直ぐの第1ヴァイオリン。ここは第1プルト、第2~第4プルト、第5~第7プルト、第8プルトに4分割されますが、更に第1プルトの二人は全く別の音楽をやってます。即ちコンサートマスターは高音のトリルを只管弾くのに対し、フォアシュピーラーは狂ったようにアルペジオの連続。他のプルトも実は全員がデイヴィジで夫々の音符に邁進している。
以上のこと。聴いている以上に見ていること、視覚の面白さ楽しさ。いや~、飽きなかったですね。もちろん沼尻の指揮が極めて推進力に富み、一気に聴かせる一筆書きの逞しさを備えたものだったこともあるでしょう。あっという間の40分弱。もう一度聴いてみたいなぁ~。
ということで今回は怪我の功名、前から3列目で見、聴くツァラトゥストラの面白さを満喫しました。

 

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